文章力を身につけられると聞き、2か月ほど前から日々の習慣として『小説の模写』をしています。
それほど多くのものを書き写せたわけではないのですが、日々模写をするなかで、いろいろを学ぶことがありましたので、今回は模写をやってみて感じたことなどをまとめてみました。
模写とは
模写とは、あるものをまねて写し取ること、ないし写し取ったものを示す言葉で、文章、イラスト、手芸、写真など、さまざまな分野でおもに自身の技術力向上の手段のひとつとして広く行われています。
模写に対する考え方は賛否両論あり、論の数だけ定義もあるかと存じますが、当ブログにおいては、模写は『文章の模写』のことだけを指し、『先人の書いた文章を一言一句たがわず書き写すこと』と定義しています。
その旨ご了承ください。
模写をするのは、どんな本がいい?
書き写すものは何でもOKで、自分が「こういうものを書きたい!」と思っているものであれば、どんなものでも模写の対象になり得ます。
ただ、「こういう本を書きたい」と同時に「売れる本を書きたい」という気持ちもあるのであれば、自分の書きたいものだけを書いているだけは足りないでしょう。
「文学賞を獲りたい」という願望を持つ作家の卵は、自分が応募しようと思っている文学賞のこれまでの受賞作を読んで、受賞作品の傾向と対策を練ります。
もちろん、全員が全員、過去作を読んだり対策を練ったりして応募するわけではなく、読んでいない人の提出した作品が受賞するケースもあるかとは思います。
とはいえ、その賞が求める小説の傾向があるとするならば、「求められているものを書く」ことも商業作家になるためには必要な力だとわたしは思っています。
売れる本を書きたいのであれば、現在売れている本の傾向を参考にしつつ、そのなかで自分の書きたいジャンルを探すのがいいのではないかと思います。
模写をするなら、短編と長編はどちらがいい?
ただ単に文章力や語彙力を増やしたいだけであれば、短編小説のほうが模写しやすいと思います。
しかし、文章力、語彙力に加えて、世界観の構築、構成力、章(または単元)への枚数配分なども勉強したいのであれば、自分が書きたいものを参考にすべきです。
すなわち、エッセイが書きたいのであればエッセイを、短編小説を書きたいのであれば短編小説を、長編小説が書きたいのであれば一本でもいいので長編小説を模写することをおすすめします。
エッセイと短編小説、長編小説では、構成も流れもまったく異なるからです。

わたしの模写のやり方
模写のやり方は人それぞれ。
こういうふうに模写をするのが正解というものはなく、いろいろ試してみて自分なりのやり方をみつけるものだと思っています。
わたしがやっている模写のポイントは以下のとおり。
これが絶対的なやり方というわけではありませんが、模写をしたことがなく、どのようにしたらいいか分からないという方の参考になれば幸いです。
模写をする前に本を読み込み「参考になりそうか」を考える
まずは模写する本を選びます。
模写する本は自分が「こんな話が書きたい!」と思っている作品のうち、できれば何度も読み返している一編を選びましょう。
何度も読んだ本だと流れはすでに把握できていますし、文章のリズムも自分にとって読みやすいことは証明されていますから、読んだことのない一編よりも書き写しはスムーズに行うことができると思います。
書きたい一冊が長編小説だけれど、模写は短編小説で行おうと思っていて、短編小説はまだ読んだことがないという場合は、まずはその短編をじっくり読んでみてください。
そして、そのうえで「その短編小説に使われている文章表現や語彙が自分の創作にとって参考になりそうか」と自問自答してみてください。
同じ作家さんでも作品によって作風を微妙に変えている、ということもあり得ます。長編小説はドンピシャでも短編小説はいまいち響かないということであれば、ほかの短編作品(なければ中編小説かエッセイ集など)を探してみることをおすすめします。
(構成や章配分などは長編と短編では異なるので、そこはあまり気にしなくて問題ないかと思います。)
句点(。)ごとに段落を区切る
文章の独特のリズムや文字数のバランスを掴むために、句点(。)ごとに行を変えて模写するようにしています。
そうすることによって、「なぜ、この文章は読みやすいのか」、「どのくらいの長さの文章であれば、心地よく読めるのか」を把握することができるからです。
句点以外に注意していること
印刷可能範囲にびっしり文字が詰まっているのか、行の後にほどほどに空間があるのか、行間の広さ、文字の大きさなど、紙に印刷された状態で見たときの見た目のバランスにも注視しています。
読みやすい文章にするためには、漢字が詰まりすぎても、ひらがなばかりでもよくありません。
これは読み手のターゲット層の年齢などによっても変わってきます。
児童小説を書きたい方は、模写のお手本に児童小説を選んでいるはずですので、お手本に沿って漢字の量などにも意識を向けながら模写すると良いですね。
語尾だけ書き出す
『それを変えることによって文の印象ががらりと変わる』と言われたとき、『それ』に何が浮かぶかは人によると思いますが、わたしの場合、『それ』は『語尾の表現』だと思っています。
など、語尾に関して悩みがある方は、ぜひ語尾に注目しながら模写をしてみてください。
わたしは、好きな作家さんの言い回しを学ぶために、文章全体をタイピングするのとはべつに「語尾だけ」を手書きで模写することもありますが、これだけでもなかなかの勉強になります。
模写は手書き?それともパソコン?
手書きのほうが頭に入る、という意見があることはわかっていますが、それを知ったうえでも、わたしはパソコンで入力していくことをおすすめします。
なぜなら、最近は小説賞の原稿の応募条件にも『手書き原稿不可』のものがありますし、賞に応募せず、自らどこかの投稿サイトに投稿するにしても、結局パソコン上にデータを入力しなければ投稿することもままならないからです。
もちろん、賞にも応募しない、書籍化も目指していないし、投稿もしない、ただ純粋に文章力だけ身につけたいということであれば、模写も原稿作成も手書きでも良いと思います。
しかし、第三者に読んでもらいたいという意欲が少しでもあるのであれば、タイピングスキルも鍛えられるパソコンでの入力模写が、わたしは良いと考えています。

文章力も上がってタイピングも早くなれば最高ですね
タイピングの速度が速くなれば、自分の小説を書くときにも大いに役立ちます。ということで、わたしはパソコン入力での模写をおすすめします。
ただ、模写のほとんどをパソコン上で入力するわたしも、「語尾の語感」「オノマトペ表現」「最高の言い回し」など、体に覚えさせたい日本語や文法は手書きでノートに書き出しています。
とくに「語尾」の書き出しはめちゃくちゃおすすめ。
語尾を変えるだけで、文章はめきめき生きてくるので、作品全部の模写をする時間はない、という方は語尾だけ書き出してみるのも勉強になると思います。

やってはいけない模写ってある?
最初に書いたとおり、わたし自身は模写に正解の方法はなく、どんな本でもいいし、どんなやり方でもいいと思っています。
ただ、それでもいろいろ試すなかで「これは身につかないな」という模写のやり方がありましたので、それらを「やってはいけない模写」として紹介しようと思います。
最初から長編小説の模写に挑戦する
どんな本でもいいとは書きましたが、長編小説の執筆を希望する方でも、一番はじめの挑戦はできれば短編小説がおすすめ。
最初から長編に挑んでしまうと、それこそ模写がどんな風に勉強になるのかを掴むことができない間に、イヤになってやめてしまう可能性が高いからです。
たとえば、「京極夏彦さんの【鉄鼠の檻】ようなお話を書きたい」という方でも、最初から【鉄鼠の檻】の模写に挑戦するのではなく、ひとまずは、おなじ京極夏彦さん著の『虚談』『冥談』『眩談』などの短編集を模写してみて、模写で学ぶべきことは何なのかを自分なりに掴んでから、それでも挑戦したければ【鉄鼠の檻】の模写に挑んでみることをおすすめします。
ちがう作家の本をバラバラに模写する
ノンフィクション作家のドキュメンタリー作品を模写した後、続けて幻想小説家の作品を模写する、あるいは時代小説を模写した後に、現代が舞台の恋愛小説を模写する、などというやり方はおすすめしません。
模写をする本が増えれば語彙力が増えるのは間違いありませんが、これでは時代による言葉使いのちがいや風俗の表現、文節の分け方、比喩の言い回しなどがごちゃごちゃになってしまい、勉強になるどころか、かえってどのように書けばいいかわからなくなってしまいます。
模写に慣れるまでは作家さんをひとりに決めて、その作家さんが書く似た雰囲気の作品(登場人物がおなじシリーズ物など)をくり返したほうが身につくと思います。
他のことをしながら模写をする
模写はかなり集中力を要します。
学校で先生が書いた黒板をただノートに書き写しても全然頭に入らないように、いろいろと自分の頭で考えながら書き写さないと、ただ「書かれている文字を書き写すだけ」になってしまい、意味がありません。
せっかく模写のために時間を取るのであれば、集中しないともったいない。
人によるかと思いますが、集中力を削ぐのであれば、音楽を聴きながら、TVをつけながらなど、何かをしながらの模写はしないようにした方がいいかと思います。
一日一段落ずつ模写していく
模写を習慣にするのは、とてもいいことなのですが、一回に書き写す量が少ないと模写のよさがなかなか掴めないかなと思います。
できれば5、6ページ以上連続して書き写すことで、文章のリズムみたいなものが掴めてくるかと思うので、模写をする際は、十分な時間をとって集中して行うことをおすすめします。
ちなみに、わたしは模写をする本を読む際、場面転換(場所や登場人物の変更)ごとにふせんをつけるようにしています。
これは模写終了の区切りをつけるためで、一編を一気に模写できない場合には、場所の移動や登場人物の交代など、場面転換があるところでやめるようにしています。
模写した後に大切なのは『実践してみること』
ある程度模写ができたら、その表現力が頭に入っているうちに実践してみましょう。
実践の方法は、今日(または昨日)実際に体験した10分ほどの出来事(事実)を書き出し、それを模写した作風に似せて書きなおしてみる、です。
玄関を出て会社に到着するまで。家族を起こして朝食を食べ終わるまで。スーパーで買い物しているときのこと。
何でもいいので、虚構や想像を交えず、ただ事実だけを模写した作風に似せて書くのです。
というように、まずは直近で起きた出来事(事実)を箇条書きにして書き出してみてください。
それができたら、憧れの作家さんになったつもりで、その文章を足したり引いたりしてみてください。おそらく、これまでの自分の書き方とは明らかに違う気持ちで文章を書くことができると思います。

具体的に読んでみたいなら、言い回しが秀逸なこちらの本がおすすめ。「ああ、書きそう(笑)」が何度も楽しめます。
模写はとてもいい勉強方法だけど、継続はおすすめできない
わたしが思うに、『模写』は未来永劫ずっと続けていくものではなく、あくまで『自分だけの書き方を見つけるまでの練習方法』。
誰かの真似をしているかぎり、唯一無二の存在にはなれません。
それはすなわち、第一線で活躍する商業作家にはなれない、ということ。
だって、夏目漱石の真似をして書いた無名の素人の作品を読みたい人なんていませんよね。そんなものを読むくらいなら、全員が全員、夏目漱石の書いた小説を選ぶはずです。当たり前です。
小説を書きたいと思い立ったばかりの初心者や、語彙力、表現力に自信がない人が勉強する手段として、模写はすぐれた学習方法だと思います。
とはいえ、しょせんは他人のまね。
模写によって【多くの人に読まれる作家さんたちが持っているリズム感、物語の構成や流れ、世界観を作り上げる語彙力、ページをめくらせる勢い、そして文法や漢字配分など】を効率よく勉強したら、模写は卒業して、自分なりの作風を模索することにシフトチェンジしていかなければならないと、わたしは考えます。
- 読めばすぐにその作家さんの著書とわかる独自性の作り方
- 不自然さを感じさせない物語の進め方、物語へのいざない方
- 自分の世界観に引き込んでいく語彙力や表現力
- 次のぺージをめくらせる、読まずにはいられない魅力ある文章の書き方
- 小説として成り立つための基本的な日本語や漢字の使い方

何ごとも『真似をする』というのは、学習の基本。小説家を目指す初心者の皆さん、一緒にがんばりましょう✒
最後までお付き合い、ありがとうございました。
それでは、また☻
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