今回は犬の歯について、折れたら治療費はいくらくらいかかるのか、治療するほうがいいのか、それとも抜歯する方がいいのか、などをまとめていきます。
興味があれば、お付き合いください。
飼い犬の27%の歯に問題あり?
歯が折れたり、割れたりすることを「破折(はせつ)」といいます。
ヒトの歯とちがって、奥歯がギザギザにとがっていたり、立派な犬歯があったりと丈夫そうに見える犬の歯ですが、実はとても折れやすいことはご存知でしょうか。
飼い犬の27%(およそ10頭に3頭の割合)に見られる、という報告があるほど、犬の破折は起こりやすいのです。 しかし、口の中のことなので気づかれにくく、症状が悪化して慌てて病院を受診する、という保護者さんも多く、

もっと早く気がつけば治療が可能だったのに、
もう抜歯するしかないんだって……

あああああああああ(涙
なんてことにならないよう、普段から愛犬の口まわりの動きには、しっかり注意して見ておかれるようお願いいたします。
口のなかに異常があるときの症状
以下のような症状があった場合、口の中で破折をふくむ何らかの異常が起こっている可能性があります。
- くしゃみ、鼻水が出る
- 顔(目の下あたり)が腫れている
- よだれが多い(口のまわりがべたべたと汚れている)
- 口臭がする
- ご飯を食べたそうにするけれど食べない
- 硬いものを避け、柔らかいものだけ食べる
- 片方の歯でばかり噛んでいる
- こぼしたり、突然食べるのを止めたりする
- あくびなど口を大きく開けることができない
- 口元を触らせない
- 口元を前足でこすったり、地面にこすりつけたりする
- 歯茎が赤く腫れている
- 噛んだものに血がついている
このような症状が見られるときには、すぐさま口の中をチェックし、歯が折れていないか、左右で形がちがう歯がないかなど確認してみてください。
普段から口の中のチェックや歯みがきをしなれている子だとスムーズに確認できると思いますが、日常あまり口元を触らせない子の場合、むりやりこじ開けようとすると、噛まれたりしてお互いにケガをする可能性があります。
自分ではチェックできない、チェックすると危険だと感じた場合には、何もせずに動物病院に連れて行き、保護者さんがおかしい(いつもと違う)と感じたことを、そのまま獣医師に伝えてみてください。

歯が折れていた場合、どんな治療が必要?
歯が折れると一言にいっても、歯の破折にはさまざまなケースが考えられます。
歯が折れたり割れたりした場合、まず確認しなければならないことは「歯髄(しずい)」が見えているかどうかです。
歯髄(しずい)は見えていないケース
表面のエナメル質、その中の象牙質、さらにその奥にある神経や血管を通す組織のことを「歯髄(しずい)」といいます。(歯の構造自体は犬もヒトも同じです。)
原因が分かっている場合、そのものの使用中止
歯が折れたり、欠けたり、あるいは削れたりしているけれど、歯髄までは見えていない(露髄していない)という場合で、原因がわかっているときは、ただちにそのものの使用を中止します。
犬の破折は、わかっているもののうちのおよそ90%が硬いものを咬むことで起こっています。現在、下記のものを与えているという方は、別のおやつ、おもちゃに変更されることをおすすめします。
その他、硬いものを与えていない場合でも、家具などを咬むくせがある子もご注意ください。
コーティングによる保存・修復
歯の欠けた部分にコーティング剤による修復をおこなうことで、それ以上の摩耗による悪化から歯を守ります。
なお、口を開けたままにする必要がありますので、歯の治療は一般的に全身麻酔をして行われます。
歯髄までは到達していないような小さな歯の欠けなどのケースでは、コーティング剤による歯の保存もできるようですが、実際には犬の歯が破折している場合、そのうち4分の3は歯髄が露出(露髄)している可能性があるという報告があります。

一番破折しやすい第四前臼歯では、
露髄の確率はもっと高くなっています。
歯髄が露出しているときは、以下の治療の対象となります。
歯髄が露出(露髄)しているケース
犬はほとんど虫歯にならない、というのはよく聞く話ですが、これは口の中に細菌がいない、ということではありません。
歯髄が見えている場合、この口のなかにいる細菌が歯髄に入り込み、根尖(こんせん)部分に炎症を引き起こします。
根尖:歯の根元のとがった部分のこと
たとえるなら、城門(エナメル質と象牙質)を閉じて守っているにもかかわらず、本丸への隠し通路がさらされているお城のようなもの。
早急に隠し通路をふさぎ、敵の侵入を防がなくてはいけません。
歯肉治療
歯肉治療とは、歯髄が見えているけれど、根尖部分の炎症がひどくない場合や感染のおそれがない場合に行う治療法です。
抜歯はせず、象牙質と歯髄をできるだけ保存することを目的におこなう治療になります。
歯髄の状態によって、1.歯髄を残す方法と、2.歯髄を除去する方法がありますが、いずれの方法をとるかは診察の中で獣医師が判断することになります。
- 歯髄を残す…歯髄の上に覆罩(ふくとう)剤をおいて歯髄を保護する方法
- 歯髄を除去する…歯髄を除去して充填(じゅうてん)剤を充填する方法
歯肉治療をするつもりでも、破折してからかなりの時間がたっている場合や、破折が歯肉の下にも深く入り込んでいる場合などには、抜歯しなければならないこともあります。
治療の前には必ず獣医師の説明をしっかり聞くようにしてください。
抜歯
以下のような場合、通常、抜歯となります。
※「歯肉治療の予後に心配がある」について
歯肉治療は犬の歯を残せるかわりに、治療後は、定期的な診察のほか、保護者による歯みがきなどのデンタルケアが欠かせません。
せっかく歯肉治療をして歯を残してあげられても、治療後の歯みがきがうまくできずに歯周病などが起こってしまうと、また全身麻酔をしての治療が必要となってしまい、愛犬にさらなる負担をかけることにもなりかねません。
とはいえ、愛犬があまり口を触らせないタイプの子の場合、治療の予後(歯みがきなどの歯のケア)に自信がないという方もおられることと思います。
もし、愛犬が今現在まだ子犬で「社会勉強はこれから」という状態であれば、ぜひ口元を触ることに慣れさせ、歯みがきをする努力をしてみてください。
しかし、もしも愛犬がすでにシニア期に入っている場合、なかなか今から歯みがきに慣れるのは難しいのではないかと思います。これから先、全身麻酔での治療に耐えられるか、という問題もあるでしょう。
場合によっては、無理やり口をこじ開けて、お互いにストレスを感じながら歯みがきをするより、抜歯をしたほうがいいこともあるかと思います。
歯を残すか、抜歯するか、十分に獣医師と相談して決めるようにしてください。
歯が折れたときの治療費はいくら?
では歯が折れたなど歯の治療をする場合、いくらくらいかかるのでしょうか。
以下に一般的に考えられるものだけ列挙していきます。
実際にどのような治療をするかは動物病院ごとにちがいます。詳しくはかかりつけの獣医師、もしく動物病院の受付の方に尋ねてみられてください。
全身麻酔下での治療ですので、考えているより高額になることもあります。通常、費用についても獣医師からの説明はあるかとは思いますが、もし説明がない場合には、かならず処置の前に「だいたい、全部でいくらくらいかかりますか」と尋ねておくようにしてください。
なお、それぞれの金額については、日本獣医師会の平成27年6月の意識調査の中央値を参照しています。
初診料または再診料
治療や処置の前には必ず問診、診察が必要になります。
その病院の利用状況に応じて、初診料あるいは再診料がかかります。

術前検査の費用
全身麻酔による治療ができるかどうかを調べるために、さまざまな術前検査を行う必要があります。
まず、全身麻酔に耐えうるかを調べるための血液検査、生化学検査。
さらに、見るだけではよく確認できないときなど、破折の状態を調べるための口腔内X線検査(場合によっては、口腔内だけではなく、全身のX線検査をすることもあります)。
その他、超音波検査、心電図検査など、その子の状態によって獣医師が必要と感じる検査を行うことになります。
その子の状態によって術前検査の内容はちがいます。ここに書いたものが不要なこともあれば、これ以外の検査が追加して必要になることも十分に考えられます。
歯の治療費と全身麻酔の費用
歯科治療は、暴れると口の中をケガする危険がありますので、ほとんどのケースで全身麻酔をして治療にあたります。
治療にはコーティング剤による保存・修復、歯肉治療、抜歯とお伝えしましたが、意識調査では【歯石除去、抜歯、根管治療】の3つのデータしかありませんので、そちらを記載しておきます。
実際に計算してみると……
仮に、以下の条件(検査内容)で計算してみると、
合計:43,636円。けっこういい値段になりますね。
しかも、この金額は(全国平均値というわけではなく)あくまで中央値ですので、実際にはもっと高くなることも考えられます。
もし治療費に不安がある場合には、ペット保険に入ることも検討されてみてはいかがでしょうか。
破折は繰り返す?
参照論文のデータによると、破折した犬のうち、およそ40%の犬が別の歯も破折しているということです。
上記のとおり、犬が歯を破折してしまうと最悪、全身麻酔下での抜歯となる恐れもあります。それが繰り返しとなると、愛犬の身体的負担はもちろん、保護者さんの精神的、経済的負担も非常に大きなものになります。
噛みぐせをなおすのは根気のいる訓練で大変だとは思いますが、愛犬のためにもできるだけ早い段階でなおすようにしてあげてください。
まとめ
今回みなさんにお伝えしたいのは、ギザギザで強そうだけど「実は犬の歯はとても折れやすい」ということ。
特に、山と山が交差するように嚙み合わさる犬の奥歯は、その間に物がはさまったときに横にしなって折れやすいため、奥歯でガリガリと硬いものを噛んでいるのに気づいたときは、すぐに止めさせるようにしてください。
また、口の中をチェックしたけどおかしなところはなかった、と思っても、実際には欠けた部分に歯石がたまって素人目には気づかないことも多いです。
残念ながら折れた歯は元には戻りませんが、状況によっては抜歯をせずに済む可能性もあります。
歯髄が露呈していると、そこから細菌が体に入り込み、全身の各臓器に悪影響をおよぼす恐れもあります。
遊んでいるときに歯が折れたときはもちろんのこと、最初に記載した「口の中に異常がある場合の症状」があるときにも動物病院を受診し、歯が折れていた場合には、なるべく早めの治療ができるようにしてあげてくださいね。

最後までお読みいただき、
ありがとうございました(^^)
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