今回はジビエ生食で起こる可能性のあるウイルス感染や寄生虫感染などについてまとめました。
生肉にひそむウイルスや寄生虫は、ヒトにも愛犬にも感染する危険があります。
生の肉には、どんなウイルスや寄生虫が存在する可能性があるのかについて調べてみましたので、ジビエ食に興味がある方にお読みいただければ幸いです。
ジビエ(gibier)とは、猟師が狩猟によって捕獲した野生鳥獣を指すフランス語で、野生鳥獣にはクマ、イノシシ、シカ、野ウサギ、キジ、カモなどが含まれます。
日本では敬遠されがちですが、フランスでは高級食材のひとつとして扱われています。
どのような感染症にかかるリスクがある?
E型肝炎ウイルス(HEV)
イノシシやシカの生肉やレバーの生食が原因で起こります。
日本獣医学会ホームページでは「犬はE型肝炎に感染はするものの、肝炎の症状は認められなかった」としつつも「感染するのは事実なので、今後、犬や猫でE型肝炎が発症する可能性」も「ウイルスの性状が変異し、犬や猫に肝炎の症状を引き起こす可能性」も否定できないと書かれています。
簡単にいうと、
これまで「感染したけど症状がなかった」からといって、今後、感染した犬が発症しないとは言い切れません
ということ。
ウイルスは突然変異することもしばしば。
ジビエの肉はかならず加熱して、ウイルスを死滅させるようにしてください。
慢性消耗病(CWD)
脳内に異常プリオンタンパク質がたまることで発症する神経性の病気で、同じプリオン病の一種に牛海綿状脳症(BSE)があります。
などから感染体が見つかっており、プリオン病のなかで唯一排せつ物を通じて広がるため、感染しやすく、また一旦感染が広がるとくい止めることは不可能と考えられています。
現在のところ、慢性消耗病(CWD)がヒトに感染することまでは証明はされていませんが、感染の可能性は否定できない、と考えられており、犬でも同様の危険性があると考えられています。

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)
通常、マダニからヒトに感染するウイルスですが、感染した動物の体液(血液など)から接触感染することもあるため、感染したシカやイノシシの肉にさわることで感染する可能性があります。
生肉にさわる場合には、ゴム手袋をするなど直接さわらないよう注意してください。
住肉胞子虫(サルコシスティス)
2011年12月および2015年12月に滋賀県で、また2018年6月に和歌山県でシカ肉が原因と疑われる食中毒事案が発生しています。
サルコシスティスについては、調査したシカ36頭のうち36頭すべてに虫体が確認され、保有率は100%という衝撃的なデータもあります。
馬肉にも住肉胞子虫が寄生しており、ヒトでも食中毒を起こすことがありますが、-20℃で48時間以上冷凍すれば失活することが確認されています。
住肉胞子虫については冷凍保存が食中毒の予防法になりますが、トリヒナのように冷凍では死滅しない菌もあるため、冷凍→解凍→加熱する方が安全です。
トリヒナ(旋毛虫)
日本ではクマの刺身を食べたヒトで感染が確認されていますが、イノシシ、ウマ、ブタも宿主となりえます。
また、台湾の日本料理店で生のスッポンを食べたヒトでも集団発症が起こっています。
筋肉のなかに寄生し、冷凍に強く-30℃で4カ月保存しても死滅しませんので、十分な加熱が必要とされます。
ウエステルマン肺吸虫
サワガニ、モズクガニが感染宿主です。
雑食性のイノシシがこれらのカニを食べて感染しているケースはもちろん、草食動物のシカからもサワガニのDNAが検出されており、そのシカ肉を生で食べたヒトから肺吸虫症が報告されています。

もともと犬の体内にも存在するけど、一応お伝えしたいもの
サルモネラ属菌
もともと犬の体内にも存在しており、保有率は5~25%とされています。
また、犬用ローフード※および犬用フリーズドライ食品に含まれるサルモネラ属菌を調べたところ、犬用ローフードでは46検体中7検体からサルモネラ属菌が検出されています。
(フリーズドライではサルモネラ属菌は検出されていませんが、「それ以外の菌」が検出されています。「それ以外の菌」がなんだったのかは書かれていません)
※ローフード……加熱しない生の状態、もしくは48℃以下で調理した食材を使用した食品
愛犬に良かれと思ってローフードを購入した方には大変申し訳ないですが、加熱したほうが安全かと思います。
なお、シカの刺身を食べたヒトでもサルモネラ属菌による食中毒が発生しています。
カンピロバクター(キャンピロバクタ―)
これもシカ、イノシシを含む野生動物、家畜(牛や豚など)、家禽(にわとりやうずらなど)、ペットを宿主とする菌です。
2015年4月、北海道の焼き肉店でカンピロバクターの感染が原因と考えられる集団食中毒が発生し、14歳の少女が死亡しています。
カンピロバクターなどの細菌は肉の表面に付着していることが多いため、肉をしっかり加熱すれば中毒の危険性は減少します。ジビエ以外でも生肉はかならず加熱して食するようにしてください。
また、Zoonosis協会の行った調査では、下痢をしている1歳未満の犬のうち、13.8%がカンピロバクターを保有しているという結果も出ています。(※下痢症状のない1歳未満の犬では0%)
犬のうんちを片づけたあとは、必ず手を洗うようにしましょう。
腸管出血性大腸菌(EHEC)O157:H7
シカ、イノシシ以外にもノウサギ、鳩、ガチョウ、七面鳥そして犬、猫の体内にも、もともと存在する菌です。
実験の結果、『犬には特に症状が現れなかった』とのことですが、数日間、犬のうんちのなかに生きた大腸菌が確認されたため、犬のうんちを通じてヒトが感染する可能性があります。
1g中に含まれる菌の数が10個に満たないほどの少量でも発症します。
野生動物の生肉にさわることはもちろん、野生動物の肉を食べさせていなくても愛犬のうんちの取り扱いには十分気をつけてください。
まとめ
せっかくの楽しい食事、愛犬もヒトも食中毒の心配などしたくないものです。
ウエステルマン肺吸虫のように冷凍することで死滅する細菌もいますが、トリヒナのように冷凍に強い寄生虫などもいます。
犬にあげるにしても、ヒトが食べるにしても、食用にする場合にはかならず加熱するようにしてくださいね。
ついでに、生肉をさわった調理器具などの消毒もお願いいたします。

最後までお読みいただき、
ありがとうございました(^^)
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