今回は感染症のひとつである犬インフルエンザについて調べてみました。
犬インフルエンザはヒトに移ることはあるのか、どのようにして感染するのか、どんな症状があるのか、消毒や殺菌はどうやってしたらいいのかなどについてまとめましたので、興味があればお付き合いください。
犬インフルエンザの原因ウイルス
インフルエンザは抗原性のちがいによりA型、B型、C型に分類されます。
犬インフルエンザは、このうちA型インフルエンザウイルスが原因の感染症です。
A型インフルエンザはヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の組み合わせにより、H1N1型、H5N1型、H3N8型などさまざまな型に分類されます。
ヒトにうつる可能性はある?
これまで日本で報告されている事例は「ヒトから犬に伝播した」というもので、「犬からヒトに伝播した」という事例、および「犬同士で集団感染した」という事例(証拠)はありません。
1971年ころに、2004年にフロリダで馬→犬に伝播したH3N8亜型ウイルスが日本国内でも流行したことがありましたが、馬のあいだでの感染にとどまり、犬やヒトへの感染は起こっていません。
また、韓国やタイで発生した鳥インフルエンザ(H3N2亜型)ウイルスは、そもそも日本では報告されておらず、ヒトへの感染はおろか、犬への感染事例もありません。
とはいえ、ウイルスの変異はめずらしいものではなく、ことインフルエンザウイルスに関しては毎年変異を起こしています。
現在までに判明しているインフルエンザウイルスについては、日本において馬や鳥から犬に感染が広がる可能性はきわめて低いと考えられているようです。
とはいえ、今後、馬やにわとりなどから犬へ、そして犬からヒトへうつるように変異する可能性もありますし、海外から食肉などを通じて新しいウイルスが入ってくる可能性もあります。
「犬からヒトに感染することはない」とは言いきれない、と考えていたほうがいいと思います。
現在のところ、日本国内で犬→ヒトの感染報告はない。しかし、インフルエンザウイルスは突然変異するので、今後も感染することはないとは言いきれない。
これまでの発生状況
これまでの犬インフルエンザの発生状況(一部)を時系列にまとめると以下のとおりです。
2004年1月 | フロリダ州 | H3N8亜型 | ドッグレース場でグレイハウンドが発症 |
2004年6月~8月 | アメリカの6州 | H3N8亜型 | 14のレース場で発症体が報告される |
2004年 | タイ | H5N2亜型 | 鳥から犬に伝播 |
2005年 | アイオワ州 | H3N8亜型 | ドッグレース場でグレイハウンドが発症 |
2005年 | 日本 | H3N2抗体 | ヒトから犬に伝播 |
2006年 | 中国 | H3N2亜型 | 鳥または犬(疑い)から犬に伝播 |
2007年 | オーストラリア | H3N8亜型 | 馬から犬に伝播 |
2007年 | 韓国 | H3N2亜型 | 鳥または犬(疑い)から犬に伝播 |
2010年 | 韓国 | H3N1亜型 | 犬から犬に伝播 |
2012年 | タイ | H3N2亜型 | 鳥の加工餌を食べたことにより感染したと推定 |
2015年 | シカゴ近郊 | H3N2亜型 | シェルターなどを中心に犬から犬へ感染拡大 |
2004年:フロリダ州の事例
2004年、アメリカのフロリダ州で、ドッグレース用に飼育されていたグレイハウンド22頭に呼吸器疾患の集団感染が発生しました。
これが、犬インフルエンザの初めての発症報告となります。
そのドッグレース場は競馬場としても利用されており、かつ、犬たちから検出されたウイルスは馬インフルエンザウイルス(H3N8)に似ていたため、近くにいた馬から犬へ感染が広がったものと考えられました。
残念なことに、その時発症したグレイハウンド22頭のうち、8頭が出血性肺炎で亡くなっています。
その後、同年6月~8月、アメリカ6州14カ所のドッグレース場でも感染が確認されました。
2004年:タイの事例
2004年、タイでアヒルの死骸を食べた犬が死亡し、この犬から高病原性H5N1鳥ウイルスが分離されました。
これにより、鳥インフルエンザウイルスも犬に感染する(哺乳類ではない動物からも感染する)ということが判明しました。
2005年:アイオワ州の事例
2005年、アメリカのアイオワ州の2カ所のドッグレース場で、2004年と同じくグレイハウンドの集団感染が確認されました。
このときは、すべての犬が発症し、ほとんどは治癒しましたが、5%以下の犬が死亡(死因は同じく出血性肺炎)しています。
これもH3N8亜型のウイルスが原因でした。
2007年:韓国の事例
2007年、韓国で鳥ウイルス(H3N2)から犬へ伝播したことによる、犬インフルエンザウイルスの感染事例が報告されています。
感染拡大も見られ、そのなかには犬から犬への感染もあったのではないかと考えられており、死亡した犬では重度の気管支炎などの呼吸器障害が見られました。
この時のさまざまな調査により、その2年も前の2005年から、すでにH3N2犬ウイルスが韓国内に拡散していたことが判明しています。
2012年:タイの事例
2012年、タイでH3N2犬ウイルスが検出されました。
これら、アジアで見つかったH3N2犬ウイルスは遺伝子がとても似ており、同じ鳥インフルエンザウイルスが共通のルーツであることが判明しています。
感染経路は、
- 鶏肉を販売する市場
- ウイルスを持った鳥肉で作られたエサ
- 診察を受けた動物病院
と推察され、3のケースでは「犬から犬への感染」が疑われる事例もありました。
2015年:シカゴ近郊の事例
2015年、シカゴ近郊で1,000頭を超える犬に呼吸器疾患をともなう犬インフルエンザの集団感染が発生しました。
感染の中心となったのは犬の集団飼育施設で、アジアからシカゴに連れてこられた犬※がもっていた、当時アジアで流行していたH3N2犬ウイルスが原因でした。(※シカゴに連れてこられたのは、アジアで食用になる運命だった犬を助けるため)
本ウイルスはアメリカ全土に拡大し、2017年までに約20州で報告されています。
また、本ウイルスは猫にも感染することがわかっています。
犬インフルエンザのり患率と感染経路
り患率は100%
り患率とは、その病気にかかる確率をいいます。
犬インフルエンザウイルスに接触した場合、すべての犬は感染(り患率100%)します。
また、感染しやすい犬種や年齢などはとくになく、すべての犬に感染するおそれがあるため、もともと呼吸器が弱い子や、免疫力が低下している子のいる家庭では特に注意が必要といえます。
何から感染している?
これまでの事例から、感染経路を抜きだしてみると以下のとおりです。
- 馬
- 鳥、鳥肉加工品
- 動物病院で使用された器具など
- 感染した犬(犬の咳、吠えたときの飛沫、おもちゃについた唾液など)
- 感染した犬に接触したヒト
また、犬インフルエンザウイルスはおよそ48時間は感染力が持続します。
そのため、感染した犬が使用したケージなどは消毒後、念のため48時間以上使用しない方がいいでしょう。
犬インフルエンザの症状
犬インフルエンザに感染すると、2~5日間の潜伏期を経たのち発症します。
前述のとおり、り患率は100%ですが、症状が現れるのは感染した犬のうち75~80%で、20~25%の犬では症状がありません。
り患率、発症率ともに高いウイルスですが、ありがたいことにほとんどの個体で症状は軽症です。
軽症の場合
急性の呼吸器症状(軽度)、くしゃみ、発熱、鼻水、食欲不振などが見られますが、いずれの症状も軽く、持病や合併症などがなければ2~3週間のうち※に回復します。
(※別の論文によると10日~30日間は湿ったセキが続くともあります。)
重症の場合
犬インフルエンザウイルスに感染中に、
などの悪条件がかさなると、重症化する場合があります。
重症化すると、40℃以上の高熱、肺炎を起こして、最悪の場合死にいたります。
2004年の最初の報告事例では22頭のうち8頭が死亡しており、死亡率は約36%とかなり高いですが、全体的な致死率は10%以下(別論文では5~8%)とされています。
治療法と予防法、ワクチンについて
治療法について
今、発症している症状に対する治療(対症療法)と栄養管理を並行しておこなっていく必要があります。
絶対にしてはいけないことは「ヒト用のインフルエンザ薬を犬に与えること」。
インフルエンザ薬だけではなく、ヒト用の薬を自己判断で犬に与えることはとても危険です。絶対にしないようにしてください。
ヒト用のインフルエンザ薬を動物に使用することは認められていません。
脱水になりやすいので、十分に水を飲ませつつ、あまり無理をさせないよう、ゆっくり過ごさせることが大切です。
予防法・ウイルスの殺菌について
予防対策
ウイルスの殺菌
感染した犬のケージなどウイルスがついているかもと思われるものについては、消毒薬や洗剤で洗うことで感染力を失わせることができます。
インフルエンザウイルスは熱にも弱く、60℃のお湯で30分加熱することでも不活性化することができます。
犬インフルエンザウイルス自体はおおよそ48時間は感染力が持続するため、感染した犬が使用したケージなどは消毒後、念のため48時間以上使用しない方がいいでしょう。
感染した犬は発症後7日程度ウイルスを排出し続けるため、症状があらわれてから念のため10日程度は、排せつ物の処理に気をつけ、感染した犬が使った食器やおもちゃなどの消毒や洗浄をこまめに行うことが重要です。
犬インフルエンザウイルスのワクチンについて
2006年の論文では「ない」とされていた犬インフルエンザウイルスのワクチンですが、アメリカにおいて2009年にH3N8、2015年にH3N2犬用不活化ワクチンが実用化されています。
2020年8月現在、動物医薬品で探してみたところ、表示されているインフルエンザ薬は牛、馬、豚、鳥のみでした。
日本で実用化されているかは不明ですので、詳しく知りたい方は、かかりつけの獣医師に尋ねてみられてください。
混合ワクチンに入っているのは、犬【パラ】インフルエンザウイルス
現在、国内でも使用されている犬用の6種混合ワクチンなどには、犬【パラ】インフルエンザウイルス(CPIV)が含まれています。
このワクチンの対象となる犬パラインフルエンザウイルスとは、パラミクソウイルス科ルブラウイルス属に属すると思われる(正式には未分類)もので、インフルエンザウイルスとはまったく別のものです。
ということで、犬パラインフルエンザウイルス用ワクチンでは、犬インフルエンザウイルスを予防することはできません。
まとめ
以上のことから個人的意見をまとめると、
感染力は強いけれど、ウイルス自体はそれほど強くない。ほとんど軽症で2~3週間ほどで回復する。予防さえしっかりしておけば、必要以上にこわがる必要はないウイルス
という印象を受けました。
現時点では、犬からヒトへの感染報告はありませんが、今後、犬からヒトにうつるウイルスに変異する可能性がないわけではありません。
また、海外からヒトやモノにくっついて、ウイルスが入ってくる可能性もなきにしもあらずです。
可能性はきわめて低いとはいえ、愛犬が感染した場合には重症化するおそれもあります。
予防対策をしっかり行い、犬インフルエンザウイルスだけではなく、いかなるウイルスにもできるだけ愛犬が感染しないよう、気をつけてあげましょう。
万が一、愛犬に犬インフルエンザの症状があった場合、集団感染を防ぐため、動物病院を受診する前にはかならず電話をして状況を伝え、その後、獣医師の指示にしたがった方法で動物を診察に連れて行くようにしてくださいね。
最後までお読みいただき、
ありがとうございました(^^)
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