「せっかく勉強したのに、翌日にはほとんど覚えていない」
「参考書を何度読んでも、なかなか頭に入らない」
「参考書を覚えたと思って過去問にトライするけど、解けない」
資格試験や学び直しをしていると、そんな経験をすることがあります。
とくに40代になると、
と、年齢のせいにしたくなることもあるかもしれません。
けれど、勉強した内容を一度ですべて覚えられないこと自体は、不思議なことではありません。
人間の記憶は、一度見たり読んだりしただけで、すべてが長期間保存されるようにはできていないからです。
大切なのは、「忘れないようにする」ことより、「思い出す・忘れる・また思い出す」という過程を利用しながら、記憶に残していくこと。
この記事では、記憶の仕組みを簡単に確認しながら、わたし自身が勉強するときにも利用している「記憶に残すための方法」を紹介します。
「まだまだ学びたいことが山ほどある」「少しでも効率よく覚えられるようになりたい」という方の一助になれば幸いです。
勉強したことは、どうやって記憶に残るのか
記憶について調べると、「短期記憶」と「長期記憶」という言葉をよく目にします。
簡単にいえば、
と考えることができます。
たとえば、Aスーパーで納豆の値段を覚え、そのまま隣のBスーパーへ行って値段を比べるために、一時的に覚えているような情報は、短期記憶のイメージに近いものです
一方、「Aスーパーでは毎週木曜日にポイントが2倍になる」と、以前から覚えていて買い物のたびに思い出せるような情報は、長期記憶のイメージに近いでしょう。
ただし、現在の心理学では「短期記憶」と「長期記憶」という二つの箱があり、情報が単純に片方から片方へ移されていく、と考えられているわけではありません。
「ワーキングメモリ」という、一時的に情報を保持しながら処理する仕組みなども研究されており、記憶のモデルはもっと複雑です。
ですが、この脳の複雑な仕組みまで考えていると、資格の勉強どころではなくなってしまうので、この辺までにしておきましょう。
勉強という目的に絞るのであれば、
情報を取り入れる→定着させる→必要なときに取り出す
という流れで考えると分かりやすいと思います。
参考書を読んで情報を取り入れるだけではなく、その知識を記憶に残し、必要なときに自分で取り出せるようにしていく。
このあと紹介する「思い出す」「間隔を空けて復習する」「問題を繰り返し解く」といった方法も、この流れを意識すると、なぜ行うのかが分かりやすくなります。
人は忘れる|「忘却曲線」から分かること
記憶について調べると、もうひとつ有名な言葉に「忘却曲線」があります。
これはドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウスが、自ら意味のない音節を覚え、時間の経過によって記憶がどのように変化するかを調べた研究から知られるようになったものです。
エビングハウスの研究は古いものですが、2015年には、その古典的な実験を再現する研究も行われています。
ここから知っておきたいのは、
人は時間がたてば忘れる
という、ごく当たり前の事実です。
「昨日覚えたのに、今日解いたら間違えた」としても、前日の勉強が無駄だったというわけではありません。
記憶に残すために大切なのは、「忘れたころに思い出す」を何度もくり返し、少しずつ記憶を強くしていくことなのではないかと、わたしは考えます。
記憶に残すためにできる7つのこと
何も見ずに「思い出す」
備中笠岡から南へ七里、瀬戸内海のほぼなかほど、そこはちょうど岡山県と広島県と香川県の、三つの県の境にあたっているが、そこに周囲二里ばかりの小島があり、その名を獄門島とよぶ。
横溝正史 『獄門島』
これは横溝正史先生の名作『獄門島』の冒頭です。横溝作品のマニアの中には、この一節を覚えている方も多いのではないでしょうか。
文章のリズムが気にいったこともあり「この一節を、そらんじて言えるようになりたい」と思い、
文章を読み、本を閉じて、何も見ずに言ってみる。
思い出せなくなったら、また本を開いて確認する。
を何度か繰り返しているうちに覚えました。最初に覚えてから20年以上経ちますが、いまだに記憶は鮮明です。
実は、この「思い出す」という行為は、記憶を定着させる方法として研究されています。
「検索練習(retrieval practice)」と呼ばれる方法で、自分の記憶の中から情報を探し、取り出す練習をすることで、その後の記憶保持を促します。
研究では、文章を繰り返し読むだけの場合と、覚えた内容を自分で思い出すテストを行った場合を比べると、時間を空けたあとの記憶では、後者のほうが優れていたという結果が報告されています。
つまり、記憶を定着させるためには、参考書などを読むだけで満足するのではなく、
読む→隠す→自分で思い出す
という時間を作ることが大切です。
検索練習を資格試験の勉強に取り入れるなら、
などの方法があります。
間隔を空けて復習する
同じページを覚えたいとき、その場で5回、6回と続けて読むのではなく、たとえば「今日、明日、明後日と、少しずつ読み返す」というように、時間を空けながら学習する方法があります。
これを「分散学習」といい、その効果は「間隔効果(spacing effect)」などと呼ばれています。
2006年に発表された大規模なレビューでは、分散学習に関する多数の研究が検討され、学習の間に時間的な間隔を設けることが、その後の記憶保持に影響することが示されています。
資格試験の勉強でも、
「今日はこの10ページを完璧に覚えるまで読み込む」
とするより、
「今日はひとまず10ページ進めてみて、明日もう一度確認する」
と考えたほうが、記憶に残りやすいことがあります。
たとえば、小説や漫画を二度目に読んだとき、あるいは一度見たことのあるドラマを見たときに、「これ、前にも見たな」と思うことはありませんか。
同じように勉強でも、前日に完全には解けなかった問題であっても、
など、記憶の一部が残っていることがあります。
そうやって「同じものに何度か触れる」を繰り返していくと、少しずつ記憶が強くなっていきます。
忘れてしまうことを失敗と考えず、「忘れかけたころに、もう一度出会えば大丈夫」くらいの気持ちで復習を続けるほうが、勉強も楽になるのではないでしょうか。
問題を繰り返し解く
「思い出す」と「間隔を空ける」を同時に利用できる方法が、問題を繰り返し解くことです。
たとえば、A・B・Cという3つの問題を覚えるとします。
- 1日目はAを勉強する。
- 2日目はAを復習してから、Bを勉強する。
- 3日目はAとBを復習してから、Cを勉強する。
このように、
新しい問題を増やしながら、以前の問題にも戻る
という方法です。

一度解いた問題は、わたしの中では、頭の中にあるノートに薄い文字で書くことに成功したようなイメージです。その文字を何度も上からなぞるように、繰り返し問題を解くことで、少しずつ記憶を濃くしていきます。
せっかく一度書き込めたのですから、「覚えたから」といって、すぐに勉強対象から外してしまうのはもったいない。
参考資料に挙げた論文でも、一度思い出せた情報について、その後も繰り返し取り出す練習をすることが、長期的な記憶保持に役立つことが示されています。
資格試験の過去問なら、「正解したから終わり」ではなく、数日後にもう一度解いてみましょう。
しっかり覚えていれば、前回より短い時間で確認できることも多いはずです。
反対に、「前回は正解したのに、今回は間違えた」のであれば、まだ記憶が安定していなかったと分かります。
文章をイメージに変えてみる
言葉だけでは覚えにくいものを、映像や図に置き換えてみる方法もあります。
たとえば、
といった方法です。
「ピンクの象を想像しないでください」と言われた途端に、頭にピンク色の象が浮かぶ、というのは有名な話ですね。
とはいえ、「何でも画像にすれば必ず覚えられる」というわけではありません。
学習方法についての研究でも、イメージを利用する方法の効果は、教材や使い方によって変わるとされています。
ですから、無理にすべてをイラスト化する必要はないでしょう。
ただ、文字だけではどうしても整理しにくいものを、
「これは絵にしたらどうなるだろう」
と考えてみるくらいはおすすめです。
最近なら、覚えたい内容をAIに入力し、イメージ画像を作ってみるのも面白いかもしれません。
自分では思いつかなかった形で表現されることで、それが記憶の手掛かりになることもあるでしょう。
すでにマインドマップを使っている方なら、覚えたい情報同士の関係を一枚にまとめてみるのもよいでしょう。
誰かに説明してみる
覚えたことを、自分以外の人に説明してみる方法もあります。
分かったつもりでも、人に説明しようとすると、「あれ、ここはどういう意味だったかな」と止まってしまうことがあります。
反対に、自分ではまだ十分に理解できていないと思っていても、何も見ずに順序立てて説明できれば、それなりに内容を理解できていることが分かります。
「人に教えることによる学習」についても研究が行われており、実際に他者へ説明することが、その後の理解や記憶に役立つ可能性が示されています。
他人が近くにいないのであれば、たとえば、
こうした方法でも、「誰かに説明する」練習はできます。
わたしは、たまに映画を観たあと、「この映画の内容を、観たことがある人と、観たことがない人に話すとしたら、どこをどう話せばいいだろう」と考えてみることがあります。
観たことがない人に話すのであれば、「ネタバレをせずに面白さを伝える」必要があります。
反対に、すでに観た人と話すのであれば、「結末について話したい」となるかもしれません。
同じ映画について説明する場合でも、相手によって情報の選び方やまとめ方が変わります。実際にやってみると結構難しいですが、記憶するだけでなく、情報を整理して伝える練習にもなります。
あるいは、ブログやSNSなどに書いて発表する方法もあります。
自分が調べたことや学んだこと、知識や経験、あるいは観た映画や読んだ本について、
などを、「他者に伝えるために文章化する」ことで、自分自身の理解を確認する機会にもなります。

ブログの形で発表しておけば、いつかその記録を誰かに読んでもらえたり、収益につながったりする可能性もあります。
ほかの知識と関連づけて覚える
買い物をしているとき、洗剤を手に取った瞬間、
「そういえばスポンジも買い替えたかったんだ」
と思い出した、という経験はないでしょうか。
このように、ひとつの情報が、別の情報を思い出す手掛かりになることがあります。
勉強でも、単独の用語として暗記するより、「これは、あの話とつながっている」と関連づけたほうが、理解しやすくなることがあります。
たとえば、資格試験の参考書には、一番後ろに「索引(インデックス)」がついていることがあります。
これは、自分の知りたい用語がどのページに載っているかを調べるためのものですが、わたしは、同じ用語が複数のページに登場していたら、それぞれを見比べてみるようにしています。
すると、
「○○という言葉は△△という意味だけれど、□□という場面ではこう考えるのか」
と、ひとつの知識に別の知識がつながっていきます。
「知識同士が連結していく」と考えると、イメージしやすいかもしれません。

ひとつの用語のまわりに、
- 具体例
- 関連する言葉
- 反対の意味を持つ言葉
- 過去問
- 自分の体験
などが次々につながり、ひとつのまとまりになっていくイメージです。
理科で習った「原子の手」のように、手を伸ばして隣の知識とつながっていく、と考えてもよいかもしれません。
単独だった情報同士に関係が生まれると、ひとつを思い出したときに、別の知識まで一緒に取り出しやすくなることもあります。
試験範囲全体を「100個のバラバラな知識」として覚えるのではなく、「つながったひとつの知識のまとまり」にしていく。
ひとつ覚えるたびに、「これは、すでに知っている何とつながるだろう」と考えてみると、丸暗記とは少し違った覚え方ができると思います。
しっかり眠る
勉強というと、「何時間机に向かったか」ばかりを気にしてしまいがちです。けれど、覚えたことを記憶として残すためには、勉強していない時間も重要です。
そのひとつが睡眠です。
記憶は、情報を取り入れた瞬間にすべてが完成するわけではありません。
覚えた情報が少しずつ安定していく過程は「記憶の固定(consolidation)」と呼ばれ、睡眠がこの過程に重要な役割を持つことが研究されています。
睡眠は単に、「勉強で疲れた脳を休ませる時間」というだけではありません。
覚えた情報を長期的な記憶へ統合していくうえでも重要な時間です。
そう考えると、
「試験前だから、睡眠を削ってあと3時間勉強しよう」
という方法が、必ずしも効率的とは限りません。
もちろん、何も勉強せずに寝れば自動的に覚えられるわけではありません。
まず勉強する。
問題を解く。
復習する。
そして眠る。
この一連の流れまで含めて、勉強なのだと思います。
まとめ|「覚えられない」ではなく「まだ思い出せない」と考える
わたしも資格の勉強をしていると、「昨日やったのに忘れている」ということが何度もあります。
ですが、そのたびに、
と考えてしまうと、勉強そのものが嫌になってしまいます。
忘却曲線からも分かるように、時間がたてば忘れること自体は、誰にでも起こります。個人差はあるにしろ、「忘れた=自分の記憶力が悪い」と考えて、必要以上に落ち込む必要はありません。
忘れても、もう一度思い出せば大丈夫。
少し時間を空けて、もう一度問題を解く。
別の知識と結びつける。
誰かに説明してみる。
そして、しっかり休む。
そうやって何度も情報に触れるうちに、少しずつ記憶に定着させながら、「必要なときに取り出せる知識」にしていけばいいのだと思います。
とくに資格試験では、参考書を読んだ回数より、本番で必要な知識を取り出せるかどうかのほうが重要です。
今日覚えたことを、明日忘れていたとしても問題ありません。
「覚えられなかった」と落ち込むのではなく、「もう一度思い出す機会ができた」くらいに考えながら、少しずつ記憶を積み重ねていきましょう。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。






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