犬の熱中症は短時間で死にいたることもある、とても危険な状態異常です。
とくに高齢犬になると体温調節もむずかしくなります。
以下、段階別の症状や応急処置の方法などをまとめてみましたので、愛犬家の方々にご一読いただければ幸いです。
熱中症とは?
高温多湿な環境の下で、からだにこもった熱を放出できないことで生じるさまざまな症状の総称のことを『熱中症』といいます。
犬はヒトとちがって汗腺がほとんどなく、発汗による体温調整ができません。
さらに❶全身を毛で覆われていること、❷ヒトより地面(熱源)に近いことなどの理由により、ヒトよりも熱中症を発症しやすくなっているため、細心の注意が必要になります。
熱中症になる原因は?
高温多湿が原因になるのはもちろんのこと、肥満や基礎疾患が原因で熱中症状態をおこすこともあります。
ということで、熱中症対策は季節にかかわらず行う必要があります。
初期症状(熱けいれん)
勘違いしている方も多いのですが「熱がある」などの状態はすでに中期で、初期段階では犬のからだに臨床症状はとくに認められません。
逆に言うと、元気そうに見えても熱中症の初期段階にある可能性もあるということ。夏場は水分を多めにとらせる工夫をするようにしてください。
中期症状(熱疲労)
目に見えて異常を感じる状態です。この時点で異常に気づけるかどうかで、愛犬の予後はまったく変わってきます。
末期症状(熱射病)
「熱射病」といわれる重度熱中症状態です。
これは多臓器不全、血液異常、脳の障害などがおこりはじめる、とても危険な状態。手早く応急処置を行った後、大至急、動物病院へ連れて行ってください。
応急処置がされていなければ致死率は30%も高くなる
応急処置が行われていないケースでは致死率49%だったのに対し、自宅での応急処置が行われていたケースでは致死率は19%まで減少するとのデータもあります。
熱中症は時間との戦いです。
下記の応急処置の手順は、かならず頭に入れておくようにしてください。
応急処置の手順
初期症状(熱けいれん)段階の対処法
→水を飲まない場合などには、動物病院に連れていく
「体温は平熱でも、飲まず食わず」という場合は軽度の熱中症になっている可能性もあります。
必要があれば動物病院にて皮下点滴で水分を補うことになると思います。
中期症状(熱疲労)段階の対処法
→からだを冷やしながら、至急、動物病院へ連れていく
まだ自分で水を飲める段階ですので、水は飲むだけ飲ませてください。
からだの表面を水で濡らし、扇風機の風を当てながら冷やします。濡れたタオルでからだを包むと、より熱放射率がよくなります。
水が苦手な犬も多いので、「大丈夫、大丈夫」と声をかけながら行ってみてください。
犬に優しく声をかけることで、自分自身のパニックも落ち着くはずです。
末期症状(熱射病)段階の対処法
→すべての処置を継続しながら、大至急、動物病院へ!
一番大事なのは、保護者があわてないこと。
愛犬がぐったりすればパニックになるのはわかりますが、先に述べたように、この応急処置ができているかいないかで、致死率は大きく変わります。
では、慌てないためにどうすればいいか?
答えは簡単。普段から訓練をしておくことです。
避難訓練のように普段から意識づけておくことで、いざというときの対処のスピードは格段に変わります。
いいコミュニケーションにもなりますので、今度のお休みの日にでもぜひ愛犬と「熱中症対策訓練」をしてみてください。
応急処置で気をつける3つのポイント
いざ応急処置をする場合に気をつけていただきたいポイントは以下の3つになります。
水が気管に入らないように注意する
意識がない状態や、けいれんをしている状態で水をかけていると気管に水が入るおそれがあります。
口元をカバーし、口の中に水が入らないよう注意してください。
溺れないように注意する
タライなどに犬をつけて冷やす場合、どんなに水が少ない容器でも溺れる可能性があります。
タライなどにつけている間は、絶対に犬から目を離さないでください。
氷水で冷やしてはいけない
氷水で冷やすと、体内の血液が冷えすぎてしまい、冷却を止めても体温がさらに低下してしまうおそれがあります。(※アフタードロップ現象)
41℃以上に上昇した体温は下げなければいけませんが、その目標体温は39.4℃。
体温は下がりすぎてもいけませんので、氷水を使用しての冷却は絶対にしないようにしてください。
犬にとっての適温/危険な気温とは?
愛犬を熱中症にしないために、犬にとっての適温が何℃くらいなのかを知っておくというのも、一緒に暮らす家族の大事な努めです。
こちらの表は、ネグレクト(動物虐待)の診断に用いられるものです。
水色の線に沿ったところに1~5までの数値が書かれています。このうち、「1」が犬にとっての適温、「5」が犬にとっての危険な温度となります。
犬にとって適温(安全な気温)とは?
縦軸はプラス気温(夏)、横軸はマイナス気温(冬)です。
「1」が適温を表しますので、
が、それぞれ適温といえます。
犬にとって危険な温度とは?
一方、ネグレクト(動物虐待)に該当する数値「5」に該当する気温は、
すなわち、上記の気温が犬にとって危険な温度といえます。
小型犬 | 約15℃以上~約19.5℃以下 | 夏:29℃以上/冬:-4.5℃以下 |
大型犬 | 約6℃以上~約15.6℃以下 | 夏:26.7℃以上/冬:-9.5℃以下 |
とはいえ、気温だけで判断するのは危険で、放置した時間によっても大きな差が生じます。
たとえば、大型犬を24℃の日差しの元に1日中放置すれば、点数的には3、4点ですが、熱中症を起こす危険は十分あります。
まとめ
前述したとおり、応急手当ができているかいないかで、愛犬が助かる確率は30%も変わってきます。
熱中症になるのは真夏だけとは限りません。
春先でも初夏のような陽気の日があることもあります。
いざという時あわてないために、普段から熱中症対策訓練をしておくことも大事ですが、そもそも熱中症にならないよう、気温や湿度、風の有無などには十分注意するようにしてくださいね。
最後までお読みいただき、
ありがとうございました(^^)
■参照:改訂版イヌ・ネコ家庭動物の医学大百科
コメント