今回は、タマネギなどネギ類についてまとめていきます。
犬や猫にネギ類がよくないということは、すでに多くの方の知るところとなっています。ご存じのことが多いかもしれませんが、復習のつもりでお付き合いいただければ幸いです。
【ネギ類】に該当する植物
【ヒガンバナ科 ネギ亜科 ネギ属】に属するものをすべてふくみます。
植物の分類について:これまで使用されていた【クロンキスト体系】などでは、これらのネギ類は【ユリ目 ユリ科】に分類されていましたが、1990年代以降に登場した【APG体系】では【ヒガンバナ科】に分類されています。当ページでは現在の主流であるAPG体系にもとづいています。
Q.犬猫が「ネギ類」を摂取するとどうなるの?
A.【玉ネギ中毒】になる可能性があります
これらネギ類には、複数の【有機チオ硫酸化合物】という物質が含まれています。
これが犬や猫の体のなかに入ると、赤血球のヘモグロビンを酸化させ【ハインツ小体】という物質に変えてしまいます。
ハインツ小体に変化してしまったヘモグロビンは、脾臓などで壊され溶血します。
文字どおり血が溶かされてしまうため、赤血球の数が急激に減少。重度の貧血を引きおこします。
これが、いわゆる【玉ネギ中毒(ネギ中毒)】という状態です。
玉ネギ中毒について
玉ネギ中毒で見られる症状
初期症状
食べた量がかなり多い場合
症状があらわれるまでの時間
食べてしまった量にもよりますが、通常、玉ネギ中毒の症状が現れるまでには1日ないし数日かかることが多いとされます。
中毒物質によって赤血球が壊されれば、身体中に酸素が行き渡らなくなります。
酸素が行き渡らなくなれば、エネルギーを作り出すことができなくなり、エネルギーが作り出せなければ、脳も筋肉も内臓も、身体中の何もかもの活動がストップしてしまいます。
対応が早ければ早いほど、中毒症状を最低限度で食い止めることができます。
ネギ類を食べてしまったことに気づくことができたならば、できるだけ早急な対応をお願い致します。
玉ネギ中毒をおこす量は個体差が非常に大きい
玉ネギ中毒については「どれだけ摂取したか」という容量依存性ではなく、その子その子のもつ感受性によって症状の度合いがことなります。
ですので、一概に何gという数値基準はなく、少量でも症状が出る可能性はあります。
反対に、ある程度のネギ類を摂取しても表面上に何ら症状が出ない子もいます。
どのくらいの量で、どんな症状が出ているか【報告事例】
実際にどのくらい食べた子で、どんな症状が出たのか、
報告例は以下のとおりです。
【Case.1】体重1kgあたり15gを1日おきに食べた犬で重度の貧血症
24頭の成犬について、生またはボイルした玉ネギを、イヌの体重1kgに対して5~15gを1日おき、または毎日食べさせたところ、1日おきに10g食べた犬または毎日食べた犬では軽度の、1日おきに15g食べた犬または毎日食べた犬では重度の貧血症をしめす犬があらわれた。
症状の軽重には個体差があったが、数日問の実験で、犬は血尿して貧血をおこした。また食欲減退も認められた。
このとき、貧血を発症した犬の赤血球内にはハインツ小体が出現し、脾臓の対体重比が増大して、その最大のものは、この比が対照犬(おそらく玉ネギを食べていない犬)の7倍にも達していた。
貧血をおこした犬には肝細胞の核の消失なども見られたが、これらの症状はやがては回復することも判明した。
【Case.2】鍋の残りを食べた大型犬が、食べた3日後に死亡
犬種はハスキーで体重は30キロは越えていた。
金曜日の夜に鍋物の残りとして食べ、土曜日に元気食欲がないことに気がついたがそのままにしておいた。
日曜にさらに元気がなくなったのでこれはおかしいと思ったが、診療を受けさせることができず、月曜に往診を依頼したが、獣医師が到着するまでに死亡した。
【Case.3】体重1kgあたり30gの生の玉ネギを3日間食べた犬に重度の貧血
玉ネギを犬に与えた場合には、5~10g/㎏BWでハインツ小体がおこる。
30g/㎏BWの生玉ネギを3日間与えることですべての犬に重度の貧血、赤血球ハインツ小体、血色素尿症がおこり、なかには重度の黄疸に発展し、玉ネギを与えてから5日目には死亡した。
【Case.4】味噌汁ひと口で重度の貧血の犬もいれば、玉ネギ2個食べても何ともない犬もいる
食べた玉ネギの量はあまり関係なく、玉ネギに対する感受性は遺伝的要因で決まる。
玉ネギ入りの味噌汁を一口飲んだだけで、重度の貧血をおこす犬もあれば、玉ネギ2個を食べてしまっても、何ともない犬もいる。
猫の赤血球はさらにハインツ小体を形成しやすく、このため猫でもこのような中毒はしばしば認められる。
※以上の報告のデータは引用していますが、文章はわかりやすいように変えています。
まとめると、
あらためて、これらの報告からもわかるように、玉ネギ中毒がおこる可能性のある摂取量はとても個体差が大きいことがご理解いただけるかと思います。
「ひとかけら口にして倒れた大型犬」も「けっこう食べたけど、ケロッとしている小型犬」も、どちらのケースもありうるのが現実のようです。
ヒトでいうところの、
アルコールみたいな感じですね。
「症状がない」は「中毒をおこしていない」という意味ではない
この中毒症状は血液と反応しておこる生理反応です。
ということは、理論上、食べても平気な子は存在しません。
「ケロッとしている」という場合もあるかと思いますが、これは症状が表面にでていないだけで、血液のなかでは軽度の溶血はおこっているはずです。
しばらくすると回復するケースが多いようですが、これも個体差があります。
愛犬がネギ類を食べた疑いがあるときは、あとで後悔することのないように行動なさってください。
誤食時の対処法
まだ口の中にあるようであれば、すぐに取り出してください。
飲み込んでしまった場合、かかりつけの獣医師に早急に連絡し、食べた量を伝え、その後の指示をあおぎましょう。
診ないとわからない、といわれる可能性は高いですが、
病院に連れて行くにしても先に連絡しておくと、
診察がスムーズに運びます。
食べた量があまりにも多い場合には胃洗浄や輸血といった処置が必要になるかもしれませんが、それほどではない場合でも、血液検査をしてみると玉ネギ中毒(貧血)を起こしているかどうか調べることができます。
まとめ
美食家の犬や猫が生のネギ類を自らかじる、ということは考えにくいですが、
などの事故はしばしばおこります。
もし、ネギ類を食べたことに気づけたならば、決して素人判断で様子見はせず、できるだけ早く動物病院に連絡、あるいは受診することをおすすめします。
玉ネギ中毒は保護者が気をつけてさえいれば、起こりえない中毒です。
愛犬の健康維持のため、ネギ類の取り扱いには十分お気をつけください。
最後までお読みいただき、
ありがとうございました(^^)
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